アンダーステイトメントの典型

日本では今じゃすっかりマイナーなブランドになってしまったイタリアを代表する名門ランチア。
今回はそのランチアのミッドセンチュリー感満載の一台、近日入荷予定となったフルヴィア・クーペをご紹介します。

細かい話はこちらをご覧いただくとして、今回は、クルマの話はさらりと済ませ、あまり日本では知られていないイタリアにおけるランチアというブランドについて触れてみたいと思います。

FulviaCoupe09.png


1906年創立のランチアは語る必要もないくらい重要な名門として知られています。現在は実質イプシロンのみのラインナップで、不遇を託っているとしか言えない状況ですが、まもなく復活するとの話もでています。

イタリアの名門といえば、アルファ・ロメオ、フィアット、ランチア、マゼラーティが挙げられるわけですが(アルファベット順です)、ランチアは今でも大統領専用車に指定されるほどの別格のブランドだったりします。その最たる魅力は「アンダーステイトメント」。一歩引くフォーマルな心持ちやデザインが世界で愛される理由です。

イタリアのその他ほぼすべてのブランドが「わかりやすい可愛さや痛快さ」でのアピールが中心なのに対し、ランチアはどちらかというと一見とっつきにくいくらいのスタンスが特徴。誤解を恐れずに簡単に言うなら、名家出身で文武両道で、頭脳明晰な上品な紳士淑女的な存在なのに、出しゃばらない存在だったりします。

こうしたオーラの源泉には、技術に対する異様に強いこだわりや、採算度外視で作り込みをしてしまうようなスタンスがあったのですが、それが災いしランチアは1969年に経営破綻してしまいます。

しかし、すぐにFIATグループ傘下にブランドは継続され、やがて日本でもおなじみのストラトスや037ラリー、デルタなどを生み出し、ラリー界を席巻するなどの活躍は皆さんもご存じかもしれません。

さて、そんなランチア。イタリアではこの破綻前と後で、ちょっと中味が異なります。良い悪いという言い方はここでは避けたいのですが、作り込みが激しかった破綻前と、効率も重視しなくてはならなくなった破綻後という区別がなされます。

もちろん、丁寧な作り込み、独特のこだわりに価値を見出すか、それともよりこなれた量産ノウハウにより高まった効率や安全性、信頼性という部分に価値を見出すか...。

あくまでマニアの間ででの話ですが、破綻前こそが「本当のランチア」という人たちがイタリアには少なからず存在しています。

ジワジワくるベルリーナ(セダン)のインパネ

ジワジワくる、独特すぎるベルリーナ(セダン)のインパネ


その「本当のランチア」時代に、小型車レンジを受け持ったのがこのフルヴィアです。
皮肉にもランチアが破綻してしまった理由を実感できるのがこのフルヴィアだったりします。

例えば、フルヴィアにはベルリーナ(セダン)とクーペの二種類が存在したのですが、最初の二枚のカタログ写真を見てもわかるように、ぱっと見でもこの二台には共通点がほぼありません。完全に別のデザインを持っています。

もちろん、内装も全く異なり、少々同じクルマの名前を冠するにはちょっとはばかられるのでは?と言いたくなるくらいの不自然さすらあります。
1960年代後半の当時から古風といわれた外見のセダンには、いま見ても前衛的なデザインの内装を用い、一方でスポーティな外観のクーペにはあえてシンプルなスポーツカー的なインパネを用いるという「自由っぷり」。

まあ、こういうことをやってるから潰れちゃったんでしょう。間違いなく。

クーペのインパネ

クーペのインパネ

そんな「クセ強め」なランチア最大のチャームポイントは、見た目や第一印象ではなく、所有後にふつふつと湧き上がる喜びが半端ないというところ。
乗るたびその品質や操縦性、乗り心地にハマっていくというのが、ランチアの恐ろしさだったりします。

もう一つは、なぜか駐車場にいるときは主張弱めなのに対し、人が乗ると俄然存在感を増し、乗っている人を素敵に見せちゃうという不思議なデザインというのも、ランチアらしい魅力だと言えるでしょう。(ランチア好きの偏見入ってます)

大概のクルマは無人の状態ですでに100%の力を出してしまってるんですが、代々のランチアは人が乗ってからはじめて「絵」が完成するかのような不思議な魅力があるんです。

気づけばこうしてくどくど魅力を説明しちゃってる感じが「めんどくさい」という方も多いと思います。
そういった方には「向かない一台」なのかもしれません。

でも、こんなクルマはなかなかないので、是非試してみる価値もあると思います。
他では決して経験できない、独特の感覚がランチア最大のセールスポイントなのかもしれません。

GiadaBettole.jpeg

今も人気のクーペ。未だにクセが強すぎると言われるベルリーナ。どちらもシブい一台です。

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