受け継がれるもの


以前弊社で輸入したアルファ・ロメオの1750GTV。Quadrifoglio d’oro(クアドリフォーリョ・ドーロ) という金の四つ葉のクローバーがつく、特別バージョン。

ペダル類の配置やシートデザインなどが通常版の緑のクローバーと異なる仕上げで、乗った印象も正直「シャキッと」していた。もちろん、個体の問題だとはおもうのだが、アルファ特有の「ブカっとした感じ」がない、実にソリッドでいい一台だった。
仕事柄、いろんな時代のいろんなバージョンのイタリア車に乗ってきたが、これまでのイメージをガラッと塗り替えてくれるようなそんな一台だった。

そのクルマの元のオーナー(イタリア人)は、他にもジュリアクーペなどを持っている、いわゆる「筋金入りのアルフィスタ」で、もう一台、全く同じ年の1750で色違いを持っていることを知っていた。

先に入手した一台を譲ってもらった際にも、こいつ(黄色ボディの1968年式)だけは手元に残すんだと自慢していたのだが、つい先日、さすがに歳には逆らえないので「やはり売りたい」との連絡を受けた。
まあ御年85歳だから、仕方ないとは思う。

愛好家が注文し手に入れ、また愛好家に受け継がれたクルマの多くは、イタリアかヨーロッパのやはり愛好家の手元に収まるのだけど、可能ならこういうレベルの個体を日本のスンスージアストの方にも味わっていただきたい。


スポーティなモデルが多いアルファは、どうしても走り込まれていたり、時代とともに様々な改造が施されていたりするケースが多い。
アルファ・ロメオの歴史や素性を良く理解しているイタリアでさえもそうなので、これが他の国においては、結構無理めな改造がなされていたりなんてケースはザラにある。

往時の状態や雰囲気をきちんと維持している一台となると、やはり奇跡のような確率になってしまう。こればっかりはやはり産地にアドバンテージがある。

だから、往時の状態をしっかりと丁寧に受け継いで現在まで残してくれた彼のようなコレクターには本当に頭が下がるし、今回声をかけてくれたことを光栄にさえ思う。

写真のように、お世辞にも高級感はない、シマシマのゴム素材の防汚マットだが、これもきちんと当時のものが美しいまま残されている。カーラジオのスピーカーだってご覧の通り綺麗なままだ。
磨いてきれいにしたのではない、大事にされ続けてきたものだけが持つ、独特の雰囲気がある。

自分が同じことを50年以上にわたってできるか? 
そう問われて、自信を持ってハイとは言えないかもしれない。

商売的には、こういう「こだわりの一台」というのは、往々にしてあまり美味しくないのだが、でも好きなクルマを次の世代の好きな人へ正しくバトンタッチしていくというのは、長く自動車に携わってきた人間の最小限の義務のような気がしてならない。

偉そうな物言いだけど、やはりいちクルマ好きとしては、仮にも50年以上に渡る維持をしっかりと続けてきた先人へのリスペクトは決してなくしちゃいけないと思っている。

とにかく、たっぷりの愛情がないと、機械を長い期間維持していくのはとても難しいからだ。

今回はたまたまジュリアという今や世界的な人気アイテムであり、今後60年代イタリアの、そしてアルファのアイコンとしてますます人気が出るであろう存在について紹介したが、500しかり、その他のフィアットやランチアなどでも未来に受け継ぐべき一台というものがでてくる気がしてならない。
できればそんなクルマたちを扱えたら光栄だと思っています。


イタリアも高齢化社会に直面している国の一つだから。


もっと有名で華やかなクルマの方が価値が高い!
そういう声はあって当然だけれども、ウチみたいな超零細だからこそできるニッチな文化的貢献というのもあると思うので、地道に続けていきたいと思う。

アルファ・ロメオ1750GTV 1968年型。
1968年3月15日にアレーゼ工場のラインから出て、同年翌月4月6日に納車されたという履歴までしっかりと残されている一台。

まだ、イタリアのどの業者にも売却意思を伝えていない一台。

ご興味ある方はこちらまで

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